交通事故⑩
案内されたところに行くと、看護師2人とベッドで横になっているAちゃんがいた。
先生「Aちゃん朝は何を食べましたか」
私「サンドイッチとヨーグルトとジュースです」
先生「分かりました。本来全身麻酔を行う時は前日から絶食なのですが、今回は緊急手術になりますので、最悪食べたものを吐きだし、喉に逆流する恐れがあります。もちろんそうならないように処置するつもりですが、この用紙をお読みになりサインをお願いします」
そう言われ、何枚かの種類にサインをした。
私「Aちゃん朝何食べたかも思い出せない?」
Aちゃん「ん~何か食べた気はするけど、何を食べたか思い出せない」
私「そっか。今からかかとの手術だからね。痛い所はない?」
Aちゃん「なんか体よくわからない。救急車で目が覚めた時も事故に遭ったとは分からなくて、ママが泣いてて、夢だと思ったくらい。でも友人Bの家に行くために家を出たのはさっき思い出した。」
私「Aちゃんは○○橋の信号を自転車で渡ろうとしたら、信号無視の車に右から撥ねられて、30mも飛ばされたんだって」
Aちゃん「うそーー。25mプールよりも跳んだの?」
私「そうだよ…でも脳も内臓も脊髄も大丈夫だって」
看護師「そろそろ用意ができたので行きますね」
私「Aちゃん頑張ってね」
Aちゃん「ママー!!今思い出した。Aはちゃんと青信号で渡った。車白色じゃなかった?もし運転手が『Aが信号無視をした』って言ってるならそれは嘘だから。警察にちゃんと言ってて」
そう言って手術室に入って行った。
全くわが子ながらしっかりしている。
取り乱すことなく、順に記憶を辿って思い出したんだ。
確かに加害者の車は白だった。
待合室に戻ると一斉にみんなが私を見た。
私「前の人の手術が終わって、今から麻酔をかけて、手術になります。終わる時間はわかりません。皆さん今日はとりあえずお引き取り下さい。Aはもう命には別状ありませんので、大丈夫です」
友人Cパパ「Aちゃんの顔を見たいのですが…」
私「本当に心配してくださりありがとうございます。でも子供たちと先生は明日から学校です。この病院まではお家から1時間はかかります。何時に終わるか分からないのに、待っていてもらうのは気が引けます。また明日、来ていただけたら嬉しいです」
担任「私もAの顔を見るまでは安心できません」
私「先生は私たちよりもっと家が遠いです。先生には寝不足で生徒が心配するような顔で教壇に立ってもらう訳にはいきません」
みんな仕方なく帰って行った。
友人Bママに父と私を送ってもらい、母に病院での待機を頼んだ。
私は家に帰り、入院の準備をして、父の車で病院に向かった。
病院に着いた時、まだAちゃんの手術は終わっていなかった。
しばらくすると看護師が来た。
看護師「Aちゃんはあと30分ほどで手術が終わる予定です。術後はHCUの病室に入ってもらうので、HCU前の待合室に移動しましょう」
そう言われ移動した。
待合室に移動するとき病院内のコンビニが目に入った。
私「私たち朝ごはんを食べたっきり何も食べてないね」
と両親に言った。不思議と喉も乾かなかったし、お腹も減らなかった。
お手洗いにも一度も行っていなかった。
人間は極度のショックを受けると、他は何も感じないんだと思った。
コンビニでとりあえずおにぎりとお茶を買い、待合室で両親と食べた。
お手洗いに行っていないことに気付くと、無性に行きたくなり、
鏡を見て驚いた。
泣きはらした目、マスカラも全部落ち、それはそれは見るにも無残な自分の顔だった。
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