交通事故⑦
救急車の中では先生がAちゃんを担当し、看護師はずっと私の肩をさすってくれていた。
看護師「お母さん、びっくりしたね。怖かったね。Aちゃんは今から病院で体の隅々まで検査するから、悪い所がないか見てもらおう」
私はずっと泣いていた。
私「何でAちゃんがこんな事になるの…」
看護師「大丈夫。大丈夫。」
病院に着くまでずっと隣で慰めてくれた。
病院に到着すると私は救急外来待合室に通された。
Aちゃんは担架で運び出され、何の会話もすることなく検査に入った。
しばらくすると、病院の人が透明の袋に入ったAちゃんの荷物を持ってきた。
交通事故に遭うと、飛び散った荷物は救急隊員か警察官が全部集めて、救急車に乗せてくれることをその時初めて知った。
透明の大きなゴミ袋の中には着ていた洋服、靴、中学の通学バッグ、携帯、財布、お泊りセット、夜友人と食べようとしたであろうおやつ、そして私が友人ママに渡すよう頼んだお土産。
着ていたジャンパーは破れ、白い擦り傷がたくさん付いていた。
長袖Tシャツは黒く汚れている箇所がたくさんあり、肌着も地面に擦れて付いた黒い汚れと破れ。ワイドパンツには血も付いていた。
夜食べようと思っていたポテチは破裂し、他のおやつも箱が壊れていた。
怖かったよね…痛かったよね…可哀そうに…破けた服を抱きしめて泣いた。
携帯は無傷で画面には私の着信とLINE、泊まりに行くはずだった友人からのLINEが表示されていた。
待合室での待ち時間はすごく長く感じた。
Aちゃんの生まれてからの顔が走馬灯のように思い浮かんだ。
初めて笑顔を見せてくれた時、初めて立った時、自慢げに歩行器で歩いた時、離乳食を催促する顔も、泣いた顔も、初めてプレゼントをくれた事も、料理を作ってくれた事も発表会も入学式も卒業式も…
お泊りで荷物が多いのに、友人ママへのお土産を持たせたことを後悔した。私が持って行けばよかったんだ…
前にAちゃんを実家に預けて、同窓会に行ったことを後悔した。子供を置いて飲みになんて行くから罰が当たったんだ。
Aちゃんの悪いテストの点を叱った事を後悔した。自分だって同じテストで高得点も取れないくせに子供に無理をさせたからだ。
あんなことをしたからだ。こんなことをしたからだ。後悔ばかりした。
あぁそうか。Aちゃんがもし死んじゃったら、私も死ねばいいんだ。
Aちゃんが居ない人生なんて私には何の意味も無い。
そう思いついた時、私の涙は止まった。
でもまたしばらくすると、Aちゃんの成人式姿が見たいな…
Aちゃんの結婚式も見たいな…孫の顔を見たいな…
まだAちゃんは中学2年生で、そんな事を今まで考えたことは一度も無かった。
でも待合室での私はこんなことを繰り返し、泣いてはボーっとし、泣き喚いては一点を見つめを繰り返していた。
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